田園のお尻たたき刑務所

駅からゆっくり歩いて30分。辛うじて郊外の住宅地と言えなくもない風景が、田園地帯のそれに変わる頃、その建物が目に入ってきた。

空き地や小さな畑の区画に囲まれる古びた鉄筋コンクリートビル。その名は……

お尻たたき刑務所

スパンキング/鞭打ちによる「お尻たたきの刑罰」を執行する施設として開設された私設刑務所である。

格安で売りに出されていたビルをSMサークルが取得し、調教や懲罰のための集会場として利用していたがSMサークルが解散してビルも中核メンバーの一人に譲渡された。そのメンバーが新たに数人の仲間と共に「お尻たたき刑務所」を作ることになったという。

スパンキングパートナー募集掲示板でお尻たたき刑務所の囚人を募集する記事を見つけた時にはネタかと思ったが、問い合わせてみるとどうやら本物らしい。しかも「所長」はかなりの厳罰志向のようで、「徹底的にお尻を叩かれたい」願望が抑えられず連絡を取ってみた。

現在は収容されている囚人はおらず面談と「お試し」のお尻たたきで数名の囚人を選んだ後に正式に運営を始めるとのことで、出頭日時に指定されたのが今日の11時。

メールには遅れたら鞭打ちです、などとさりげなく書かれていたが、さすがに最初からあからさまに罰を受けるようなことはしたくない。

早めに駅に着いてゆっくり歩いてきたおかげでちょうどよい時間になり、そのままビルへと向かった。

事務所や住宅が入る雑居ビルのような3階建ての建物は古びてこそいるもののしっかりした作りで、刑務所といった雰囲気ではない。

ただ、窓がカーテンや板で閉ざされたどこか陰湿な感じと立地が、ある種の秘密基地めいた印象を与える。

少し離れた位置から全体を眺め、メッセージで送られてきた写真と照合、間違いないことを確認すると入口に向かう。

正面の入口は、ガラス扉で狭いロビーのような空間に受付らしき机も見える。

意を決してインターフォンを鳴らすと、与えられた名を名乗る。

「囚人候補1番です」